| 今回取材に訪れたのは鹿児島県鹿児島市の有限会社上水流酒店。
店舗の販売面積は12坪。常時勤務している人数は2人という小さな酒屋さんだ。
店の外見も昔どこかで見たような郷愁をさそう、どこの田舎にもあった酒屋さんである。店名よりも目立つのは、店先に積み上げられた缶ビールの箱と大きく値段が書かれた看板だ。
店内にも、積み上げられたビールの箱と安売りのPOPが目立つ。駐車場もなく、立地条件も幹線道路から少しはいった場所にあり、さほどよいとは言い難い。
実は、このどこにでもあるような、いや今となっては少なくなってきたかもしれない昔ながらの小さなこの酒屋さんが年商で1億6千万円をはじき出す。昔から地元で店を開き、さぞや顧客の数が多いのだろうと思ったが、ほとんどが店売り。酒の配達もあることはあるが、ごく少ないという。
創業はいつですか?と尋ねると、「昭和25年ぐらいなかなあ」と曖昧な返事が返ってきた。
今回お話をお聞きした、社長の上水流辰二さんは、3代目になるという。創業50年といえば、宣伝材料にもつかえそうだが、まったくその気はないように見える。そしてそれが実はこの小さなどこにでもある酒屋さんたった1件で年商1億6千万円をはじきだす経営戦略の秘密なのだと、しだいに取材をすすめていくうちに理解できたのだった。
酒屋という業種はある意味商売の中でも特殊な存在だ。それは法によってさまざまな制限があったからだ。またそれゆえに地元密着という商売の基板が構築され、またそれゆえにある意味守られた商売でもあった。
ところが規制緩和の波がこの業界を大きく揺らすことになる。コンビニなどでも酒が販売されるようになり、また逆に酒屋がコンビニに衣替えすることも多くなった。ディスカウントの大型店が今まで自分達が守り通してきた地域というマーケットに押し寄せ、客はマイカーで安い酒を求めて遠くまで足を運ぶ。
上水流さんの言うところ「どこの店で買っても中身は同じ商品」なのであるから、安売りのディスカウントショップに対抗する手段は限られてくる。いくら店がおしゃれになっても老舗であることを打ち出しても、客にとってはそれは重要な情報ではないのだ。どこで買っても同じ商品ならよほどのことがないかぎり、誰でも安いほうを選ぶ。
そう考えれば、おしゃれな店舗や老舗を宣伝材料に打ち出すことや、もしかしたら店の名前が書かれた看板さえも、本当にそれが必要なものなのかは疑わしい。それらは客にとってみれば、たんなる店主の「自己満足」、もしくは「経営戦略を考えているフリをする自分にとってのいい訳」でしかないのかもしれない。だからというわけではないだろうが、ここ上水流酒店にはそういったものがほとんどないのだ。
さらに話しを聞いていると、だんだんと上水流酒店の戦略が見えてきた。ヒロ経営システムのパソコンPOSを導入する前は、すべて手作業によって仕入れ管理をしていたそうである。そしてWIN95が発売され、その作業はパソコンのエクセルにとってかわった。ところが、打ち込みしてその結果を見て、販売戦略を考えているとどうしてもタイムラグがでるのだ。
「その日の利益が何日もしてからでないと解らない。これでは作戦のたてようもない」
上水流さんは、そこでPOSの導入を考え始める。大手メーカーのPOSや、同業者の使っているPOSをとにかく見て回った。その数は150件ほどにものぼる。
とにかく調べた。自分のやりたいことは手作業でしていた頃からもう解っていた。そこで出逢ったのが同じく同業者でヒロ経営システムのパソコンPOSを使っている宮崎県の酒屋さんだった。実際に機械にさわってみて、即決断したそうである。
「大手メーカーのもいいんですが、車にたとえたらそんなに高級車を買っても使わない機能はいらない。シンプルで使いやすくなければ意味がない。」
この車のたとえは解りやすい。家庭用のパソコンでもそうだ。あまりたくさんの機能がついていても逆につかいずらくなって結局は本体を使うことさえしなくなるのはよくあることだ。「大きいことはいいことだ」「大は小を兼ねる」と戦後日本は復興していったが、いまやシンプルイズベストである。大排気量の車では、結局買い物は自転車でいくことになる。この考えにも上水流酒店の経営の基本的なところが現れている。無駄は極力はぶく。いらないものはいらない。
「もちろん安い買い物ではない。でも在庫管理することでパソコンPOSの機械代は充分でる」
上水流酒店は今現在1店舗だけだ。多くの支店があるわけではないがパソコンPOSを導入する理由もここにある。徹底的なデータの分析。それによりその日その日の戦略がたてることが可能なのである。
商売は今や先をいかに見るかが重要なカギになってきている。今まで安定していたマーケットがいつどうなるかはまったくもって見えない。それは大手の企業があっさりと潰れてしまうのを見てもあきらかな現実だ。時代は今やスピードをますます加速させている。今日の商売が明日もできるとは限らないのだ。
そしてその暗中模索な状態から抜け出すのは、とにかく何があってもフレキシブルに対応できる身の軽さと、情報収集、今自分がどの位置にいるのという自己分析。それらが必要不可欠なのである。上水流酒店は、つねにこれを意識してきた。道に迷うことなく、いつも多くの選択肢を持ち、フレキシブルに世の中の動きに対応してきたのである。頭の中で地図を描ける経営は強い。そんなことを実感した取材だった。
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